第6章 就職そして逝去 エピソード17ー2 権現様と昔のお嬢様(その1) [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
ポン!ポン!っと昼玉が上がった。
三社大祭の山車行列出発だ。
コウは見物客の後ろで汗を拭いた。今日は、「お通り」なのだが出発地点の市庁舎から500メートル以上離れた新荒町の日陰で待つことにした。
多分、先頭の「神明宮」行列が見えるのは30分以上かかると思われた。
交通規制された道路脇には、観客達がアウトドア用のカラーシートや折り畳み椅子などでそれぞれ陣取っている。
ふと、その道路の向かい側の大きな家の玄関を見ると、割烹着姿のおばさんがパイプ椅子を一個、玄関前の中央に運んでいた。ちょうど観客と玄関のぽっかりと開いた空間である。玄関は古めかしい両引き戸であった。良く見ると塀がなく、窓に格子が付いていて、一昔前の大店のような木造の商店にも見える。
視線を戻して、御神輿行列の先駆けを探す。汗がカメラに付かない様にしながら、しばらく待っていると繁華街の方から大太鼓の音が響いてきた。
この街は、小さいながら城下町の面影を残している。なので、道路は入り組んで狭いのだ。鉤形の通りの向こうに、袴姿や神楽や馬に乗った行列が見えてきた。
コウは、手前の交差点の近くに移動した。辻の辺りが祭りの見せ場なのだ。ゆったりと武者押しや旗指物が通る。
三社大祭は、稚児行列に引かれた山車がメインで、辻では、細工された山車の中央の飾りが上下したり、両翼が開いて勇壮な構えを魅せる。
そして、交差点では、神楽、獅子舞、虎舞がのびのびと演技をする。その中でもコウは、特に山伏神楽を好んでいた。
もう一時間が過ぎている。やっと「おがみ神社」の行列が見えてきた。「法霊さん」だ。法霊明神は竜神で、三社のうちでは最も古いというのを、最近、コウは知った。県外の仕事を辞めて帰郷してくるまで、地元の行事の歴史などは余り知らなかったが、最近デジタルカメラを買ってから、知識を増やした。
「法霊さん」の獅子大神楽が赤い獅子頭を揺らしながら、通り道を清めている。虎舞の虎は、ささらを持った子供と戯れたり、背に乗せながら踊っている。
虎は踊り終わると、沿道の観客の頭を噛みに回る。縁起がいいのだが、中には泣きだす小さな子もいる。コウは、次々とシャッターを切ったが、山伏神楽のためにバッテリーを残した。
コメント 0