第6章 就職そして逝去 エピソード15―2 おじいちゃんの光 [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
3月11日の津波の後、コウは仕事が休みのときにコツコツと実家の庭や畑の片づけをしました。というのは、コウは花や果樹を育てるのが好きだったので、実家の庭に栗やキウイなどを植えていました。また、父親の畑の一部にユリ等を植えたり、小さな温室で蘭やサボテンを育てたりもしていたのです。
しかし、津波の泥水と塩分で庭の植物は衰弱してしまいました。ざくろの幼木は成長が止まってしまいました。
ある日の日没、汚れたソーラーライトやゴミを集積した場所を片づけていました。庭に立てていたソーラーライトも泥水に汚れて見すぼらしくなっていました。
早く片づけてアパートに帰ろうと仕分していると、一本のソーラーライトが光を放っていました。
まだ、「充電が生きていた」と考えながら、思わず近くにあった長い鉄のパイプにとがった先を固定しました。そして、家の窓の近くの地面に挿しました。見上げたソーラーライトは窓ガラスに反射して2個有るように見え、藍色の空に燦然と輝きました。
すると、コウの眼には涙がにじんできて・・・思わず、
「・・・おじいちゃん」
とつぶやきました。
脳裏に、子供のとき母方のシードおじいちゃんの家で、夜に見た電球のまぶしさと頼もしさが蘇りました。
第6章 就職そして逝去 エピソード20 お墓参り [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
ろうそくと線香に火を付けながら、長男のレイがヨシに
尋ねました。
「ねえ、お父さん。コウおじさんて子供のときはどんな
「ねえ、お父さん。コウおじさんて子供のときはどんな
子供だったの?」
ヨシは、墓地から見える海の方を見ながらゆっくりと
答えました。
「泣いてばかりいる子供だったよ。赤ちゃんのときは、
おばあちゃんを探して泣いてばかりいたそうだし、
ヨシは、墓地から見える海の方を見ながらゆっくりと
答えました。
「泣いてばかりいる子供だったよ。赤ちゃんのときは、
おばあちゃんを探して泣いてばかりいたそうだし、
おじいちゃんと三人で薪拾いに行ったときは、波にさらわれた
お父さんが泣いたけど、帰り道二人で手をつないで帰った
ときは、コウだけがずっと泣いていたそうだ。
それから、シードおじいちゃんの家のお風呂場でお父さんの
それから、シードおじいちゃんの家のお風呂場でお父さんの
足に釘が刺さったときも、コウのほうがずっと泣いていたらしい。
いつも、ほかの人のために泣いていたのかな。」
いつも、ほかの人のために泣いていたのかな。」
車椅子のダダは、静かにタミとコウと生まれてすぐに
亡くなった娘の墓を見続けていました。
末っ子のユカが言いました。
「でも、おじちゃんは心がきれいな人だった。大人になっても
純粋なまま生きてこられて、幸せだったんじゃないかな。」
「そうだな。アパートに残された、たくさんの絵を見れば
「そうだな。アパートに残された、たくさんの絵を見れば
分かるよな。あの絵を家に飾ろう。クローバーの里の
小さな家に。」
とヨシが言いました。家族たちは、小さくうなずきました。
第6章 就職そして逝去 エピソード19 お迎え [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
その日、コウは朝から少し体の調子が良くないなと感じましたが、そのまま、仕事に出掛けました。お天気は、まあまあで、少し日が差して明るい朝だったからです。
会社に着くと、いつもの様に大型トラックに乗って仕事を始めました。でも、高速道路に上がって少し運転していると、どんどん頭痛と吐き気がしてきました。
コウは、ハザードランプをつけ路肩に車を止めました。少し休んでいるうちに急に天気が悪くなって外は真っ暗になりました。
コウは、ハザードランプをつけ路肩に車を止めました。少し休んでいるうちに急に天気が悪くなって外は真っ暗になりました。
コウは、実家の近くの川辺に似た所にいました。
ふと、隣を見るとタミもいました。タミは、髪の長い小さな子どもを抱っこしていました。
「母さん、どうしたの?」
「迎えにきたんだよ。」
ふと、隣を見るとタミもいました。タミは、髪の長い小さな子どもを抱っこしていました。
「母さん、どうしたの?」
「迎えにきたんだよ。」
コウは、少し考えていました。
「母さん、その子は僕の妹?僕は、死んでしまったの?」
「そうだよ」
と返事をしたタミの腕の中で、小さな妹は微笑んでいました。
「仕事のトラックはどうなったんだろう。」
「大丈夫、近くを通った運転手の人が連絡してくれたよ。お前も、救急車で運ばれたけど助からなかったのさ。」
「そうか、大きな事故にならなくて良かったよ。」
「母さん、その子は僕の妹?僕は、死んでしまったの?」
「そうだよ」
と返事をしたタミの腕の中で、小さな妹は微笑んでいました。
「仕事のトラックはどうなったんだろう。」
「大丈夫、近くを通った運転手の人が連絡してくれたよ。お前も、救急車で運ばれたけど助からなかったのさ。」
「そうか、大きな事故にならなくて良かったよ。」
胆石で入院して点滴だけの時、やっと気がついたんだ。」
「そうかい。」
タミも、やさしく微笑みました。
「そうかい。」
タミも、やさしく微笑みました。
「そろそろ、みんなの所にいこうか。」
「ああ」とコウは言い、
「母さん、そこはクローバーが生えているだろうか。」
と聞きました。
「それがお前の望みなら、お前の心の真ん中から辺り一面にクローバーが広がるよ。」
コウは、顔も覚えていないキチおじいちゃんに会えると思い、嬉しい気持ちが沸き上がってきました。
第6章 就職そして逝去 エピソード18 コウの入院 [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
第6章 就職そして逝去 エピソード17 運転手に転職 [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
コウは、長距離トラックの運転手になりました。コウは、ヨシの子どもたちにいろいろな支援をしました。
というのは、ヨシ夫婦が共働きで忙しかったからです。休みの日には、子どもたちを買い物に連れて行ったり、スポーツ大会の送り迎えや入学の祝いもしました。コウは、自分のためのお金は、絵を描く分があれば十分でした。
ある日、甥のレイとロジの孫のヒロ達が加入しているサッカーチームの試合の応援に行きました。二人のチームは市内の大会で優勝しました。レイが、休憩のとき汗を拭きながら言いました。
「おじちゃん、生きているってすばらしいことだね。」
それを聞いた、コウは、
「ああ。」
と答え、足元に広がるクローバーをぼんやりと見ながらいろんなことを考えました。
「おじちゃん、生きているってすばらしいことだね。」
それを聞いた、コウは、
「ああ。」
と答え、足元に広がるクローバーをぼんやりと見ながらいろんなことを考えました。
第6章 就職そして逝去 エピソード16 津波とタミの逝去(その2) [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
地震の傷跡の中でタミが亡くなった後、コウは、昼夜交代の仕事に就いていました。その日は、夜勤でした。寝坊して、あわてて起きて、お弁当を買いにスーパーに行きました。
お弁当をかごに入れてレジに並ぶとずいぶんと混んでいました。 コウは、面倒くさくなりレジを迂回してそのまま駐車場に行きました。店を出てすぐに、後ろから声を掛けられました。
それは、万引きを見張っているお店の人でした。コウは、警察の人に引き渡されました。
初めてのことだったので、注意をされ、弟のヨシに引き取りにきてもらいました。
コウは、実家に戻るとダダとヨシに頭を下げて謝りました。そして、亡くなったタミにも親不孝したことを謝りました。仕事を無断欠勤した後、しばらくして、コウは、仕事を替えました。
お弁当をかごに入れてレジに並ぶとずいぶんと混んでいました。 コウは、面倒くさくなりレジを迂回してそのまま駐車場に行きました。店を出てすぐに、後ろから声を掛けられました。
それは、万引きを見張っているお店の人でした。コウは、警察の人に引き渡されました。
初めてのことだったので、注意をされ、弟のヨシに引き取りにきてもらいました。
コウは、実家に戻るとダダとヨシに頭を下げて謝りました。そして、亡くなったタミにも親不孝したことを謝りました。仕事を無断欠勤した後、しばらくして、コウは、仕事を替えました。
第6章 就職そして逝去 エピソード15 津波とタミの逝去(その1) [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
まだ、雪が降るような春浅い日、大きな地震がありました。コウの町の海岸にも津波が押し寄せ、たくさんの家が流されました。幸い、ダダの家は、床下浸水で済みましたが、家の一部が壊れました。
コウは、実家の片づけを手伝い、休みの日は、沿岸の家を流された人たちのボランティア活動に参加しました。津波の後の町や土地は、ゴミと油が散乱してひどい匂いがしていました。
ときどき、行方不明の人が見つかるときもありました。
電話やガソリン・灯油が元通りに普及してきて気候が少し温かくなってきても、大きな余震が続き、みんなは少し怯えながら生活を続けていました。
コウは、実家の片づけを手伝い、休みの日は、沿岸の家を流された人たちのボランティア活動に参加しました。津波の後の町や土地は、ゴミと油が散乱してひどい匂いがしていました。
ときどき、行方不明の人が見つかるときもありました。
電話やガソリン・灯油が元通りに普及してきて気候が少し温かくなってきても、大きな余震が続き、みんなは少し怯えながら生活を続けていました。
日陰の雪も融けて春になりましたが、ダダの家の周りの庭木や空き地の竹藪は枯れたままで、新芽が出てきませんでした。津波の塩分で死んでしまったのです。この年は、クローバーも少ししか生えてきませんでした。
そんなとき、とうとう病院に預けていたタミが亡くなってしまいました。七月、クローバーの咲く小さな家に戻ってきたタミを座敷に安置してから、コウは、タミの一番上のお姉さんに電話をしました。
親しくしているいとこが代りに出たので、亡くなったことを伝えようとしました。
「こんばんは。実はタミが!・・・」
コウは、その先を言う前に、喉が詰まってしまいました。「死んだ?」「亡くなった?」と言えばいいのか。頭の中がグルグル回って喉がつまり、涙があふれました。
受話器を持つ手が震え、もう一度言おうとしましたが、どうしても「亡くなった。」という言葉は声に出せませんでした。
いとこは、察したように「今から行くから」と言って電話を切りました。
コウは、それから少し落ち着いて、親戚中に電話をしました。
親しくしているいとこが代りに出たので、亡くなったことを伝えようとしました。
「こんばんは。実はタミが!・・・」
コウは、その先を言う前に、喉が詰まってしまいました。「死んだ?」「亡くなった?」と言えばいいのか。頭の中がグルグル回って喉がつまり、涙があふれました。
受話器を持つ手が震え、もう一度言おうとしましたが、どうしても「亡くなった。」という言葉は声に出せませんでした。
いとこは、察したように「今から行くから」と言って電話を切りました。
コウは、それから少し落ち着いて、親戚中に電話をしました。