第6章 就職そして逝去 エピソード15 津波とタミの逝去(その1) [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
まだ、雪が降るような春浅い日、大きな地震がありました。コウの町の海岸にも津波が押し寄せ、たくさんの家が流されました。幸い、ダダの家は、床下浸水で済みましたが、家の一部が壊れました。
コウは、実家の片づけを手伝い、休みの日は、沿岸の家を流された人たちのボランティア活動に参加しました。津波の後の町や土地は、ゴミと油が散乱してひどい匂いがしていました。
ときどき、行方不明の人が見つかるときもありました。
電話やガソリン・灯油が元通りに普及してきて気候が少し温かくなってきても、大きな余震が続き、みんなは少し怯えながら生活を続けていました。
コウは、実家の片づけを手伝い、休みの日は、沿岸の家を流された人たちのボランティア活動に参加しました。津波の後の町や土地は、ゴミと油が散乱してひどい匂いがしていました。
ときどき、行方不明の人が見つかるときもありました。
電話やガソリン・灯油が元通りに普及してきて気候が少し温かくなってきても、大きな余震が続き、みんなは少し怯えながら生活を続けていました。
日陰の雪も融けて春になりましたが、ダダの家の周りの庭木や空き地の竹藪は枯れたままで、新芽が出てきませんでした。津波の塩分で死んでしまったのです。この年は、クローバーも少ししか生えてきませんでした。
そんなとき、とうとう病院に預けていたタミが亡くなってしまいました。七月、クローバーの咲く小さな家に戻ってきたタミを座敷に安置してから、コウは、タミの一番上のお姉さんに電話をしました。
親しくしているいとこが代りに出たので、亡くなったことを伝えようとしました。
「こんばんは。実はタミが!・・・」
コウは、その先を言う前に、喉が詰まってしまいました。「死んだ?」「亡くなった?」と言えばいいのか。頭の中がグルグル回って喉がつまり、涙があふれました。
受話器を持つ手が震え、もう一度言おうとしましたが、どうしても「亡くなった。」という言葉は声に出せませんでした。
いとこは、察したように「今から行くから」と言って電話を切りました。
コウは、それから少し落ち着いて、親戚中に電話をしました。
親しくしているいとこが代りに出たので、亡くなったことを伝えようとしました。
「こんばんは。実はタミが!・・・」
コウは、その先を言う前に、喉が詰まってしまいました。「死んだ?」「亡くなった?」と言えばいいのか。頭の中がグルグル回って喉がつまり、涙があふれました。
受話器を持つ手が震え、もう一度言おうとしましたが、どうしても「亡くなった。」という言葉は声に出せませんでした。
いとこは、察したように「今から行くから」と言って電話を切りました。
コウは、それから少し落ち着いて、親戚中に電話をしました。
第6章 就職そして逝去 エピソード14 ロジの死 [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
第6章 就職そして逝去 エピソード13 タミの入院 [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
ある日、コウは仕事で足に怪我をしてしまいました。それを聞いたタミはびっくりして寝込んでしまいました。幸いコウは足のキズ口を数針縫って、数日仕事を休むとまた仕事に出ました。
第6章 就職そして逝去 エピソード12 ヨシの子どもたち [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
タミは、コウとヨシが就職してから、パートの合間に、町内の婦人会で旅行に行ったりする楽しいこともありました。
そして何よりも、ヨシが結婚して孫ができたことが、一番の喜びだったようです。 ヨシの夫婦が、タミとタダと同居したので、タミとダダは、とても良く孫たちの面倒を見ました。タミは、幼稚園の行事や小学校の運動会にもついていきました。
コウも、ヨシの子どもたちの成長が楽しみでした。休みの度に遊びに行って、おもちゃを買って上げたりしました。
三人の甥や姪は、サッカーをしたり、水泳をしたり、町内の神社のお神楽を踊ったりしました。コウやヨシが子ども時に出来なかった事をたくさん出来たのです。末っ子の姪が、お神楽で何十年かぶりに「権現舞」を復活させた踊りを見たときは、ひどく感動しました。
そして、それらを絵に記録しました。
そして何よりも、ヨシが結婚して孫ができたことが、一番の喜びだったようです。 ヨシの夫婦が、タミとタダと同居したので、タミとダダは、とても良く孫たちの面倒を見ました。タミは、幼稚園の行事や小学校の運動会にもついていきました。
コウも、ヨシの子どもたちの成長が楽しみでした。休みの度に遊びに行って、おもちゃを買って上げたりしました。
三人の甥や姪は、サッカーをしたり、水泳をしたり、町内の神社のお神楽を踊ったりしました。コウやヨシが子ども時に出来なかった事をたくさん出来たのです。末っ子の姪が、お神楽で何十年かぶりに「権現舞」を復活させた踊りを見たときは、ひどく感動しました。
そして、それらを絵に記録しました。
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第6章 就職そして逝去 エピソード11 転 職 [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
コウは、実家の近くに引っ越しして、新しい仕事を
見つけました。
タミは、コウが家の近くに引っ越してきたので嬉しそうでした。
見つけました。
タミは、コウが家の近くに引っ越してきたので嬉しそうでした。
ダダも年をとり定年を過ぎたので退職していました。
そして、夫婦で蓄えたお金で、新しい家を建てました。
後で、コウも家具を買ってお祝いしました。
上棟式のとき、ダダは二階に登って、手伝いにきてくれた
親戚や近所の人たちにお餅を蒔きました。
ダダの二番目の人生最良の日でした。(1番目は、タミと
結婚した日です。)
そして、夫婦で蓄えたお金で、新しい家を建てました。
後で、コウも家具を買ってお祝いしました。
上棟式のとき、ダダは二階に登って、手伝いにきてくれた
親戚や近所の人たちにお餅を蒔きました。
ダダの二番目の人生最良の日でした。(1番目は、タミと
結婚した日です。)
第6章 就職そして逝去 エピソード10 退 職(その2) [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
久しぶりに会った母親のタミはずいぶんと年を取った
ように感じました。コウは、今までの苦労や楽しかった
仲間との思い出や現在の悩みを聞いてもらいました。
話を聞き終わった後、タミは言いました。
「おらは、お前とヨシを生んでずいぶんと苦労もしたが、
楽しいこともいっぱい有った。
人は、人生を楽しまなきゃいけない。お前たちが苦しむ
ように感じました。コウは、今までの苦労や楽しかった
仲間との思い出や現在の悩みを聞いてもらいました。
話を聞き終わった後、タミは言いました。
「おらは、お前とヨシを生んでずいぶんと苦労もしたが、
楽しいこともいっぱい有った。
人は、人生を楽しまなきゃいけない。お前たちが苦しむ
ためにおらは、お前たちを産んだんじゃないんだ。
世の中には、自分が出来ないことを他人に要求する
者がいっぱいる。
だけども、自分を幸せに出来ない人が、周りの者を幸せ
世の中には、自分が出来ないことを他人に要求する
者がいっぱいる。
だけども、自分を幸せに出来ない人が、周りの者を幸せ
に出来るわけがない。
コウ、無理しなくてもいいんだよ。」
コウ、無理しなくてもいいんだよ。」
それから、少ししてコウは退職をしました。
第6章 就職そして逝去 エピソード9 退 職(その1) [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
事務所の仕事を数年勤務した頃、上司の交代がありました。新しい上司は厳しい人で、今までしていた仕事も同じやり方では許可が下りませんでした。
コウだけでなく、事務所の全員に「やり直し」「やり直し」と言う上司でした。
コウ達の仕事は、途中までやりかけの書類が何カ月もたまってきました。
何カ月も残業をしましたが、片づきません。絵を描く時間などは全く無くなりました。
コウだけでなく、事務所の全員に「やり直し」「やり直し」と言う上司でした。
コウ達の仕事は、途中までやりかけの書類が何カ月もたまってきました。
何カ月も残業をしましたが、片づきません。絵を描く時間などは全く無くなりました。
そしてある日、コウはいつものように残業をしてアパートに帰り、ドアを開けようとしたとき、何故か涙があふれてきました。こんなことは、初めてのことでした。
部屋に入り、声を押し殺して涙を流しながらコウは、頭の片隅で思いました。
部屋に入り、声を押し殺して涙を流しながらコウは、頭の片隅で思いました。
(保育園を逃げ出しても迷子にならずに、おじいちゃんの家に たどり着いた自分が、今は迷子になっている。)
(子供の時、三社大祭で迷子になっても泣かなかった自分が、今は涙を流している。)
そんな風に感じると、ますます悲しくなり、涙は、後から後からあふれてきました。
そのとき、顔も覚えていないキチおじいちゃんが、「コウ泣くな、泣くなコウ」と背中をさすってくれているような気がしました。コウは、家族に会いたい気持ちがあふれてきました。
そんな風に感じると、ますます悲しくなり、涙は、後から後からあふれてきました。
そのとき、顔も覚えていないキチおじいちゃんが、「コウ泣くな、泣くなコウ」と背中をさすってくれているような気がしました。コウは、家族に会いたい気持ちがあふれてきました。
こんなことが何度かあった後、コウは連休の時に実家に帰りました。
第6章 就職そして逝去 エピソード8 望 郷 [第6章 就職そして逝去[Work&Death]]
コウは、アパートの近くの川の土手に座り街の風景を見ていました。
川の流れる音を聞いているうちに子供の時見ていた田んぼの透明なせせらぎを思い出しました。大人たちが田植えをしているときに、遊びながら見た浮草、せせらぎの底の柔らかい土の色と冷たく光る水。
その次々と流れていく水や、ちぎられた畦道の葉っぱのように、二度と帰らぬ子供のときの思い出が通りすぎていきました。
その次々と流れていく水や、ちぎられた畦道の葉っぱのように、二度と帰らぬ子供のときの思い出が通りすぎていきました。