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ツキ子の後悔(後 編) [外 伝[Gaiden]]

 ツキ子は、残った二匹のメス猫に名前をつけました。

 
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 数ヶ月後、ツキ子が会社に行っている間に、両親が親猫と2匹の子猫の避妊手術をしました。

ツキ子はショックを受けました。そして、知人たちにもらわれていったオス猫二匹は幸せに暮らしているのだろうかと考えました。「母親なしの自分」よりは幸せかもしれない。生きていれば会えるかもしれない・・・。

 その後なぜか、ツキ子は「自分は結婚しない」と誓いました。

「自分は頭がよくなく勉強も出来ない。それは、2番目の母親のせいだ。自分は短大に行けなかった。それは、2番目の母親のせいだ。自分は安い給料で働いて、休みも・・・それは、2番目の母親のせいだ。自分の将来は・・・」

そんなふうにツキ子は心の中で、ずっと思っていました。

 

 ツキ子は、40歳を過ぎました。

そんなある日、親猫が寿命で死んでしまいました。ツキ子は、猫の葬式をして埋葬をしました。

ツキ子は思いました。猫は20年近く生きて、そして死んだ。でも誰のせいで死んだのだろうと。あの2番目の母親のせいじゃない・・・。

親猫との思い出や、出産のときの事が蘇り、涙があふれました。

 

 ツキ子は後悔の気持ちが沸き上がってきました。そして思いました。もしあの時自分が、紹介された人と、あるいは出会った人と結婚していたら、あるいは地元を離れて別の仕事に就いていたら、別の人生があったかもしれない。

もし、親に反発しないで・・・。

 
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「にゃ~ん」と猫の鳴き声がしました。

遠くから「バアバ、バアバ・・・」と呼ぶ声がしました。

ハッと目を開くと、一緒に眠っていたはずの孫娘のリカが昼寝から先に目覚め、ツキ子を起こそうとしているのでした。孫娘のふくよかな手が、痩せてシミの浮かんだ50才過ぎた手を握っています。

「バアバ、早く遊ぼうよ」

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ツキ子の後悔(前 編) [外 伝[Gaiden]]

 ツキ子が三歳になる前に母は亡くなりました。

父は翌年に再婚をして、次の年に弟が生まれました。両親は自営業の仕事が忙しく育児がままならないので、ツキ子は半年ほど知人の家に預けられました。

幼い弟が居る家に戻ってからも、知人夫婦とは数年間はお歳暮のやりとりが有ったので、「ミサワのおじさん・おばさん」と呼んでいました。

 
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 ツキ子は新しい母親に懐き、弟とも仲良く暮らしました。高校に入学するとき、偶然に戸籍を見て、自分と母親は血が繋がっていないことを知りました。

そうするとなぜか、弟の成績が良い事や、自分が運動音痴なことが面白くないと感じる様になりました。

そして、新しい高校生活のストレスも有り、母親に「ひどい事を」言ってしまいました。

 夏休み、ツキ子はバスに乗って、父に貰った住所のメモを持ち「ミサワのおじさん・おばさん」の所に遊びに行きました。そのとき初めて、父の友人だったことを知りました。

 
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 ツキ子は高校を卒業したら短大に行きたいと思っていましたが、下請けの仕事をしている父母の自営業は生活がぎりぎりでした。

それに、最近自宅を新築したばかりでした。

結局、ツキ子は説得され就職する事にしました。普通科で平凡な成績だったので就職活動は大変でしたが、母親のつてで小さな会社の事務員になりました。

 平凡な通勤が始まりました・・・

 
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 ある日、弟がメスの子猫を友人からもらってきました。子猫は、ツキ子のストレスを癒してくれたので、子猫に名前をつけ大層可愛がりました。

次の年、そのメス猫は四匹の子猫を生みました。出産のとき、ツキ子は自分の部屋で眠らないで看病をしました。生まれた子猫は、オスが二匹、メスが二匹でした。オス猫は知人たちに貰われていきました。


後 編


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老人ホームにて(何歳になっても母は恋しく:その2) [外 伝[Gaiden]]

 ある日ダダは、息子夫婦を連れて老人ホームに入居している姉を訪ねました。
ダダがカチ姉さんに会うのは数カ月ぶりでした。カチの夫が死んでからは、隣町に住むカチの家に自分の自転車で時々会いに行っていました。
しかし、ダダも歳を重ね老人ホームも遠いので、今日は息子の車で会いに来たのでした。
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 個室でぼんやりとベッドに座って居る姉の顔色は良く、元気そうでした。自宅で畑仕事をしているときはずいぶんと日焼けをしていましたが今はそれほどでもありません。
 ダダは、カチの養子の娘から「最近、母はぼけてきたようだ」と聞いたことを思い出しました。
カチは二人の息子を産みましたが、二人とも結婚をする年齢に成ってから亡くなってしまいました。
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 個室ではダダの息子夫婦が、カチの様子を見ながらぽつりぽつりと話しかけていました。息子夫婦と孫たちは、カチの事を「うさぎのおばさん」と呼んでいました。ホームに入所する前は、自宅でうさぎを飼っていたからです。
カチは、ダダの小さな孫たちが遊びに行くと時々お小遣いを紙幣でくれました。夫の遺族年金で質素に暮らしているカチは、お金に執着がありませんでした。土地も畑も手に負えないくらい有って困っているほどでした。
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 ダダも話しかけているうちに、カチが急に泣きだしました。
「おらのカッチャが死んだのに、おらを死に目に会わせてくれない。おらカッチャに会いたいよ・・・」
と涙をぼろぼろ流し続けました。
カチやダダの母親は、20年くらいに亡くなっていて、お葬式にも出たのですが、臨終のとき間に合ったかはダダも覚えていませんでした。
若いときに嫁に行って黙々と働いてきた苦労を忘れて、心はすっかり自分の生家に居るときの子供の時代に戻ってしまっているのでした。
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 ダダはふと昔のことを思い出しました。カチとダダは年が離れているので、自分がヨチヨチ歩きの頃は、良く姉のカチが背中におんぶひもで背負って面倒をみたと周りから聞かされていました。
大人たちは農作業で出掛けて留守で、一番上のカチ姉さんがいつも子守役だったのです。
ダダはそんなことを思い出しながら何も言えぬまま、カチが涙を拭いてもらっているのを見守っていました。


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三歳の孫(何歳になっても母は恋しく:その1) [外 伝[Gaiden]]

 三歳のリカちゃんは、アデノウィルスに罹ってしまいました。すぐにかかりつけの小児科で点滴をしました。お母さんがつきっきりで、一日目は6時間もかかりました。
次の日も4時間の点滴をしたので、紙おむつが一袋無くなってしまうほどでした。でも三日目には大分良くなっていました。
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 四日目の朝、お母さんが久しぶりにいつもの仕事に出掛ける準備の間、リカちゃんは隣地に住むダダとタミの家で朝食を食べさせてもらっていました。
出勤準備の出来たお母さんが玄関に寄って、バイバイと言って、いつもどおりリカちゃんとハイタッチをしましたが、玄関扉の閉まる音を聞いて、急に泣きだしました。
   昨日までお母さんと一日中一緒にいられたのに、今日からはまた保育園に送り出され、夕方まで会えないと気づき悲しい気持ちが沸きだしたのでしょう。
「ママ~、ママ~。ア~ン、ア~ン・・・」
   ダダが両目から流れる涙を交互に涎掛けで拭きましたが泣きやみません。ダダは困ってしまいました。
   泣きながらリカちゃんが「抱っこして」と言うので、妻のタミは膝にやさしく抱えてあやしました。段々と大人しくなったリカちゃんはテレビ番組の「おかあさんといっしょ」をじっと見ていました。


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馬の屁(続編その2) [外 伝[Gaiden]]

 コウの家では夜の9時までしかテレビを見ませんでした。父親のダダは朝早く仕事に行くので、9時には床につくようにしていましたから、子供達も9時までしかテレビを見せてもらえませんでした。そして、7時からはダダのニュースを見る時間でした。ですから、「忍者 赤影」や「ウルトラシリーズ」はなかなか見られませんでした。でも、「巨人の星」や「8時だよ!全員集合」は家族みんなで見ました。

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 いつもの就寝時間が近づいた頃、コウは、今日も学校で先生に叱られたことを思い出しました。
「ねえダダ?学校の先生も友達も他人の悪口を言う人ばかりだよ。人の良いところを見つけて褒める大人は居ないのかな?」
「居るよ。テンノウと言う人は良いことした人や、頑張った人に勲章をくれるんだよ」
「テンノウ?漫画の日本の歴史に出てた人かな?」
「日本で一番偉い人だよ」
「その人が神様のような人だったら、僕らの国や地球は、競争しなくも済むすばらしい世界になるよね」
  
ダダは、少し考えてから言いました。
「コウ。昔、ダダが子供の時に大きな戦争が有った。テンノウでもその戦争を止めることは出来なかったんだよ」
コウは、テレビで今でも世界のどこかで戦争が続いていることを知っていました。
「でも、日本の偉い人達や世界中の偉い人達は勉強して頭が良いんでしょう。なぜ戦争をはじめてしまうの?戦争を起こさない方法を勉強しなかったの?」

タグ:テレビ 戦争
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馬の屁(続編その1) [外 伝[Gaiden]]

 コウは、父親のダダに質問しました。
「何故、人は他人の悪い所を見つけて悪口を言うの?良い所を見つけて褒めてあげればいいのに」
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 小学校の夏休みに雨が続いたある日、ダダは珍しく仕事が休みになりました。ダダがテレビでニュースや相撲を見るのでコウは好きな番組を見られませんでした。コウの好きな番組といえば、「忍者サスケ」や「ウルトラマン」や漫画などでした。
ムシャクシャしたコウは、ダダに意地悪な質問を思いつきました。
「ワイドショウの人たちは、他人の失敗を見つけて悪口を言っているよ。先生でも警察でもないのに他人を叱っているよ。どうして?」
ダダは、「それが商売なんだよ」と言いました。
「ダダが見ていた「国会」の人たちも、意地悪な質問をして総理大臣をいじめていたよ」
「それが、あの人たちの仕事なんだよ」とダダは言いました。
「悪口を言って、お給料をもらっているの?」


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※ 写真と本文は関連しません。

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タミのゆめ [外 伝[Gaiden]]

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 タミは、いつものように畑仕事に来ていました。小学校を卒業してからはずっと家の仕事を手伝って暮らしてきました。小学校と言っても田植えや稲刈りのときは時々休んでいました。
タミは今年、25歳に成っていました。二つ上のお姉さんと一つ下の妹は、とうに嫁いでいました。
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 今日は家族みんなで、じゃがいもの植えつけに来ていました。畑の南側には川が有り小高い土手で遮られていました。そして、畑の横を用水路が流れて川に注いでいました。
タミは、用水路で手を洗いながら、土手とは反対側にある家々が並んでいる集落の方に顔を向けました。タミ達は、喉が渇いたとき、時々近くの家の井戸水を飲ませてもらいにいくことが有りました。
一番近い井戸がある家の近くで、桶などを作って暮らしている竹職人の男が居ました。タミの父親と親戚たちが煮干しを干す時に使うセイロを毎年注文をしていました。その男は、タミと小学校が一緒で学年が2個上で、水を飲みに行ったとき言葉を交わすことも有りました。
 
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タミは、用水路に眼を戻して、遅い春の太陽を反射してゆっくりと流れる水を見ました。
冷たい水と水底の泥、揺れて流れる光・・・。キラキラした光の向こうに、若い男が見えました。若い男は、川の土手に座り遠くを見ていました。川の向こうには大きなビルがいくつも見えました。タミは東京なのかしらと、雑誌や映画でしか見たことがないのにそう思いました。
若い男は、川のきらめきを見ながら寂しそうな顔をしていました。その顔はタミの父にも似ているようで、また、桶を造っているあの小屋の男にも少し似ていました。
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頭の中の映像が消えると、タミはふと考えました。「わ(=私)は男の子を生むのかしら?」
タミは水に濡れた手を前掛けで拭くと、右手の第一関節が欠けた人指し指を見下ろしました。



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