タミは結婚したばかりの頃、隣家のダダの実家の井戸で
手押しポンプで水をくみ上げて洗濯をしていました。
飲み水は、バケツで運んで自宅のカメに入れました。
コウが生まれた時は、ダダが布のおしめを近くの川で洗った
ときもありました。
 やがてダダは、土管を買ってきて自宅の敷地の中に井戸を
掘りました。でも、コウが小学校に入学する前から、タミが
共稼ぎで働くようになると洗濯が大変になりました。
タミは、港町に嫁いでいる妹の店から洗濯機を買いました。
 それから少しして、冷蔵庫やアイロンも買いました。
新しいものを買い揃えるのはいつもタミの方でした。しかし、
テレビだけは、どうしても手が出ませんでした。
それほど、生活はきつかったのです。

  コウとヨシは、小学校低学年まで隣のダダの実家へテレビを
見に行っていました。
最初はダダやタミと行っていましたが、そのうち日曜日の夕方
だけは、一人でも見に行きました。「サンダーバード」を
見たかったのです。
でも、毎週見られたわけではありません。ずっと年上の
いとこたちが「シャボン玉ホリデー」にチャンネルを切り
換えたときは自分の家に戻りました。


 





 

  ある日コウとヨシは、ダダと一緒にタミの実家に行きました。
帰り道、ダダはネコ車に中古のテレビを積んで帰りました。
そうです、コウの家にもテレビが来たのです!!
コウとヨシは、ネコ車に積まれたテレビの周りを回りながら
家に帰りました。


  コウは、日曜日の「キャプテンウルトラ」が見たく見たくて
たまりませんでしたが、ダダは7時から必ずNHKの
ニュースを見たので、ほとんど見ることができませんでした。
でも、土曜日の「8時だヨ!全員集合」は、いつも家族四人で
見ました。それは、コウが高校を卒業するまで続きました。


  そして夏休みや冬休みになるとコウは、ダダとタミが働いて
いる間、いろんな番組を見ました。特に、アニメとSF・
怪奇物のドラマや映画に夢中でした。