黒い獅子頭を抱えた袴姿の行列が見えてきた。いよいよ、「おがみ神社」法霊神楽の「一斉歯打ち」だ。左右に分かれて進んでいた二十人ほどの獅子頭が、辻に差しかかるや静かに円陣の態勢になる。

気の早いお年寄りは、早くも両手を合わせて拝んでいる。舞手が高く獅子頭を持ち上げ幕をかぶる。

カン カカン カ カン・・・・・ 

「一斉歯打ち」の乾いた木の音が辺りに響きわたる。

多分「権現舞」の一部なのだろう。コウは、涙腺が緩んだのを自覚しながら、リズミカルな「一斉歯打ち」が自分の災いも払ってくれるようにと願いながらシャッターを切った。

  



「一斉歯打ち」が終わり拍手が鳴る中、舞手たちは移動を再開した。観客の頭をかじりながら移動する舞手もいる。年配の人は我も我もと頭を差し出す。

  

 コウが山伏神楽の人たちの横を移動しながら、先程の古い大店の所まで戻ると、玄関前の椅子には一人の女性が座っていた。

良く見ると、きれいに歳をとった和服の女性だった。道路から一段高い玄関の石段に、内輪を持って品良く座っている。

その高齢の女性の前を法霊神楽の一団が通りすぎようとしたとき、小柄な一人の舞手が一団の後ろから抜け、女性の前に進んだ。

  

 軽く会釈すると獅子頭を被り、踊った。女性は、静かに見ていた。その周りだけ涼しい風が流れた。短めの権現舞だったが、十分に感動させた。

  

舞い終わるころを見計らって、先程の割烹着の使用人が御祝儀をお嬢様に渡し、お嬢様は舞手に渡した。

舞手は、お辞儀をして背中を少し丸めて仲間の所に戻っていった。

  













※ 注 記

1 祭りの流れは、青森県八戸市の三社大祭を参考にしました。

2 画像は、三社大祭以外の資料も含まれています。

3 登場人物等は創作による架空の童話です。